私服で「合同説明会」に行ってみた件
日本で、新卒として就職活動をしたことのある人、 現在就職活動をしている人であれば、一度は訪れたことがあろう。 それは、合同企業説明会である。略して合説ともいう。
「東京ビックサイト」や「幕張メッセ」 のような大規模施設に企業が各ブースを出展し、就職活動生((以下、就活生)に、事業内容、労働環境、 求める人材などを含めた会社説明を行う。
一度にたくさんの企業が見られて、非常に効率が良い。 どの業界に興味があるのか、定まっていない「迷える子羊」 にとって、あらゆる業界を横断的に見られる合同企業説明会は、 最適な環境である。
私しりぼうも例にも漏れず参加した。 多くの合同セミナーやたまに企業が独自に開催するセミナーでは、 なぜか「服装自由」というお触れがあるのだ。私が参加した合説も同様だった。
勘の良い我が読者―しりリアン―であれば、お気付きであろうが、 この「服装自由」は、実際のところ、「服装自由」ではない。いわゆる、 就活スーツで参加するのが当然である。その是非は、ここでは述べない。
そんな中、しりぼうは私服で合同説明会に参加してみた。トレーナー&ジーパンである。 ここでは、「オキテ破り」からどんな経験ができたのかを紹介したい。
ちなみに、私服参加の理由は幾つかあった。
一つ目は、たかが説明会段階で、わざわざスーツを着るのは馬鹿らしい。 二つ目は、スーツを着ると頭が痛くなりやすい。三つ目は、 わざわざスーツで行かなかったら、どうなるのだろうか、 という怖いもの見たさである。
「『服装自由』っていうのは、私服ではなく、 実際はスーツが基本というのを知らなかったですぅ~」ではなく、 100%知っていて、私服で参加した。確信犯である。
会場に到着した。入口のゲートに群がるのはスーツを来た集団、 いや周りを取り囲む人は全員スーツである!当たり前である。想定の範囲内で、むしろ想像通りといったところであろう。科学的に言えば、これによって我が仮説証明したり、であろう。
いよいよ、企業のブースが立ち並ぶ大広間に到着する。
どこもかしこもスーツメン、スーツウィーメンである!
同時に不安にもなる。
当たり前である。何千人いようかという会場で、たった一人だけ私服を着ているのは自分だけであるからだ。
しかし、圧倒的孤独ゆえに、天性の天邪鬼は興奮する。 完全に浮いている!浮きまくっている。浮き浮き、いや、 むしろウキウキする。孤独という深淵を覗き込むとき、深淵もそなたを覗き込んでいるのだ。
厄介者や嫌われ者、仲間外れにされた者を「黒い羊」などと呼ぶが、いや、本当に黒い衣を身にまとっているは、むしろ、お前達の方だぞ!!(笑)(笑)と、心の中で勝手に爆笑する。圧倒的自画自賛!
とはいえでも、この会場においてしりぼうは「黒い羊」であるには、変わりない。
「何なんだコイツは」 という目で、参加者や企業の人事から見られるだろうことは簡単に想像できよう。 これも想定の範囲内である。何ら面白味も無い。
さて、科学の仮説を実証する過程の中で、想定をしてない事態が発生することに、ある種の興奮を覚えることがある。それと同様に、「確信犯」しりぼうの想定をぶち壊してくれる事態も発生する。
とある企業のブースで、私しりぼう「熱心に」人事の説明を聞いていた。無事に説明が終わり、散会となった。それでも更に質問をしたい場合、自由に人事の担当者に話しかけることができる場面である。
私しりぼうは、気さくに隣にいた参加者の就活生に話しかけた。「初めての合説参加なのか」、「どういう業界を志望しているのか」などありきたりの質問をしてみた。
しかし、全く話は弾まない。会話が続かないのだ。しりぼうが話しかけている相手はどうやら話を早く終えたそうなのだ。一日でより多くのブースを見て回りたいのかもしれない。
何回か繰り返すうち、理解してきた。それは、私しりぼうと話をしたくない。早く逃げたいのである。
しりぼうから話しかけられた参加者からの表情からは、「頼む話しかけないでくれ」「 この変な奴と話をしているのを人事さんに見られたくない」 などの悲痛な心の叫びが聞こえてくる。目で訴えかけてくるのだ。
いや、そんな生易しい表現ではない。彼らのしりぼうに対する目は、「汚物を見る」目そのものだ。
しかし、私しりぼうは、どんどん話し続けた。
「うん?知っているよ?ワザとだよ?」― NANAの有名なあのシーンを思い出した―
冒頭でも言ったが、私は確信犯である。 そんな人間が心の叫びを聞いて、微動だにする訳が無かろう。 甘いわ!人事というお上の顔色を窺っているばかりの通称「ヒラメ人間」を見て、ここで心が折れる輩であるわけがなかろう!たわけ!
自分の中、邪悪な感情が増幅した。ますます話しかけは加速する。
「懲らしめてやる」
可哀そうなことをした。約10年前の話になるが、ここで謝罪をしておく。
そうやっていくつかのブースを見て回り、ある程度しりぼうが満足したのち、会場を去ることにした。
最寄り駅の道中で目にしたものは、今日も一日放牧を終え、夕刻に、シェパードに追われて整然と移動する羊よろしく、数えんばかりのスーツ姿の「黒い羊」達ではないか。
そんな中、一人の参加者に話し掛けた。
企業の人事の目から解放されたためか、気さくに話をすることができた。心なしがほっと安心している様子であった。それは、しりぼうが汚物を見る目から、人を見る目に変わった瞬間でもあった。
最後に、結論を出しておきたい。
無難であるが、相応しい服装というのはある程度あるということである。もちろん、セーター&ジーンズでも構わない。ただし、あの場でなら、ワイシャツでジャケットぐらいまでは許容されるのではないのかと思う。
例えば、ドイツでコンサートや高級レストランに行く場合、必ずドレスコードはある。それぞれの状況に合った相応しい服装はある程度ある。
もちろん、だらしのない服で合説に参加するのは結構だが、一番大切なことは、企業の情報をいかに多く引っ張り出せるかである。それは、展示企業だけでなく、参加者の学生からである。
自分が浮いてしまっていることを気にしまいとして、意識するような「小心者」であるなら、無難にしておいても良いのではないかと思う。
もちろん、人の好奇心、しばしば「怖いもの見たさ」というのは、時として簡単に止められるものではないのだが。